panpanya 「新しい世界」
突然ですが漫画の感想です。
意味不明なものの持っている豊かさを考える。
生活の中でふと現れる意味不明なものを、面白いと感じる。
特にそのものが存在する理由を突き止めたりするわけではないが、
寝る前などにうっすら思い出してみたりする。
「新しい世界」の中にも意味不明なものがたくさん登場する。
新物館の中には未来世界の物として、様々な謎なものが展示してある。
謎なものを見るたびに、音声案内が微妙に納得できるような、
しかし、いまだに不明な所が残る説明をしてくれる。
謎なものの言葉につくせない、どんなに説明してもこぼれてしまう部分
が感じられて、楽しくなってしまう。主人公がその説明で
感心しているのもかわいい。
しかし謎なものに対して感じる楽しさは非常にもろい。
一時の感情を保持し続けるのは難しいし、言葉にならないものを覚えておく
のはほぼできない。だからやがて忘れてしまう。
わすれてしまうと、確かに楽しかったのに、今はもうそうではない、という、
やるせなさ、でも楽しかったな、というような複雑な気分になる。
「新しい世界」の最後でもその複雑な気持ちに、主人公がなっているのでは
と感じる。発表を終えた後の主人公のモノローグがしみる。
「こうして、私の発表などなかったかのように、
最新の日々は過ぎていったのです。」
絵も、このような気持ちを形作っている。
日常の空間は詳細に描写されない。そこにある物はお互いになじみあっていて、
その空間を構成する部品のように描かれて見える。
「足摺り水族館」p61
「足摺り水族館」p101
それに対して謎なものは空間中で浮かび上がって見える。
質感とその形が詳細に描写され、確かに変なものがある、という事が分かる。
よくわからないものをじっくりとみて、観察し、その物を把握しようという
意識が表現されているようだ。
「足摺り水族館」p71
「足摺り水族館」p71
やるせないような、複雑な気分をのこす、好きな漫画です。
著者名 panpanya
題名「新しい世界」
初出 同人誌「蝉の唐揚げ」 2009年
収録単行本「足摺り水族館」